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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)2463号 判決

控訴人 株式会社日向製作所

右代表者代表取締役 日向栄雄

右訴訟代理人弁護士 和田良一

被控訴人 株式会社久保商店

右代表者代表取締役 久保鉄男

右訴訟代理人弁護士 染木勇蔵

主文

原判決を取り消す。

本件手形判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、被控訴代理人において、「本件手形は、控訴人が訴外川間工業株式会社宛に振り出し、川間工業株式会社は被控訴人に、被控訴人は訴外古沢建材株式会社にそれぞれ白地裏書をなし、古沢建材株式会社は取立委任のため訴外株式会社足利銀行に裏書し、足利銀行は満期に手形を呈示して支払を求めたところ支払を拒絶されたので、被控訴人においてこれを受け戻したものである。≪証拠関係省略≫」

理由

被控訴人の請求原因事実は当事者間に争いがないから、被控訴人は本件各手形の適法の所持人というべきである。

控訴人は、訴外川間工業株式会社より被控訴人への本件各手形の裏書譲渡は通謀虚偽表示によるものであるから無効であり、従って、被控訴人は本件手形上の権利を取得しないと主張するが、≪証拠省略≫によれば、被控訴人は、昭和四一年九月三〇日、当時被控訴人が川間工業株式会社に対し有していた工事代金の支払のために川間工業より本件各手形の裏書譲渡を受けた事実を認めることができる。≪証拠判断省略≫

つぎに、控訴人は、本件各手形は控訴人と川間工業間で取り交わされたいわゆる交換手形であるが、被控訴人は、川間工業振出手形が決済されず、従って、控訴人は控訴人振出手形を支払う必要がなくなったことを知りながらこれを取得したものであるから、控訴人は被控訴人に対しても本件手形金の支払義務を負わない旨主張するので、この点について判断する。

≪証拠省略≫によれば、控訴人は昭和四一年六月頃より川間工業株式会社との間で融通手形を交換し合い、お互いにその振出手形を支払うが、他方が支払をしなかったときは、一方もそれに見合う金額の支払をしないことを約した(いわゆる交換手形として振り出す趣旨)こと、右交換手形の総金額が一六〇〇万円に達したが、本件各手形は右交換手形の一部であること、および、本件手形に見合う川間工業株式会社振出手形が満期に支払われなかったことがそれぞれ認められる。

ところで、≪証拠省略≫によれば、川間工業株式会社は、その取引銀行である富士銀行馬喰町支店に本件各手形を含め、総額一、二二七万円の手形の割引を受けていたが、昭和四一年九月一六日川間工業株式会社の信用上の理由により同銀行との取引が中止になり、右手形全部を買戻しさせられたこと、そして、同会社は、同年一〇月二〇日破産宣告を受けたことがそれぞれ認められる。≪証拠判断省略≫

つぎに、≪証拠省略≫によれば、被控訴人の代表者久保鉄男は、川間工業株式会社の代表者青山俊徳の実兄であって、昭和四〇年九月二九日より昭和四一年九月二九日まで川間工業株式会社の監査役を勤め、なお、被控訴人会社の本店所在地を右青山俊徳の住居地におき、また、昭和四一年五月一一日設立した株式会社ケンザイ(本店所在地右青山の住所地)の代表取締役を久保鉄男が、監査役を青山俊徳が勤めている事実がそれぞれ認められる。川間工業株式会社の代表者と被控訴人の代表者とが右のように密接な関係にあり、しかも、≪証拠省略≫によれば、本件各手形には川間工業株式会社より富士銀行への裏書の記載とその抹消の記載がなされていたことが認められ、また、被控訴人が川間工業より本件各手形を取得したのが川間工業が富士銀行との手形取引を停止せられた後であってしかも川間工業が破産宣告を受ける一か月以内であることは前記認定事実により明らかであるから、以上の各事実を総合すれば、被控訴人の代表者久保鉄男は、本件各手形は前記の趣旨の交換手形であり、しかも、本件手形の見合いとして川間工業が振り出した手形が満期に至っても到底支払の見込がなく、従って、控訴人が本件手形の支払を拒みうる関係にあることを知りながら敢えて本件手形を取得したものと推認するのが相当である。≪証拠判断省略≫

そうすると、被控訴人は控訴人に対し本件各手形の手形金を請求する権利を有しないものというべく、これを認容した原判決および本件手形判決は失当としてこれを取り消し、被控訴人の本訴請求を棄却すべきである。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡部行男 裁判官 川添利起 坂井芳雄)

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